2012年9月8日土曜日

考察 IPPNWの医師の甲状腺異常に対する見解について


核戦争防止国際医師会議(International Physicians for Prevention of Nuclear WarまたはIPPNW)
の第20回世界会議が、2012年8月24日から26日まで広島で開催されました。その後、代表団は福島県の視察をし、川内村などを訪問しました。8月29日には東京で記者会見を行いました。

IPPNWからの勧告「福島の原発事故後の人々の健康を守るために」のPDFはこちらでご覧になれます。

日本語
http://tokyohankaku.up.seesaa.net/image/EFBCA9EFBCB0EFBCB0EFBCAEEFBCB7E59BBDE99A9BE58CBBE5B8ABE59BA3E381AEE58BA7E5918A.pdf

英語 http://fukushimasymposium.files.wordpress.com/2012/08/20120829_ippnw_recommendations_fukushima.pdf

IPPNWの、年間5ミリシーベルト(子供や妊婦は1ミリシーベルト)以上の被曝が予測される人達に医療的、社会的、そして経済的な支援を提供するべきであり、年間被曝量を1ミリシーベルトに下げるべきである、と言う内容を含む勧告自体は意味を成しており、適切に思えます。

しかし、IPPNWのメンバーの医師2人による、福島県の子供たちの甲状腺異常の割合の高さに関するコメントについては、懸念すべきものがあります。

こちらにある、第7回福島県「県民健康管理調査」検討委員会 次第で、県民健康管理調査の一部である甲状腺検査の結果を見ると分かるように、福島県の約36万人の子供の中の38,114人の35%に、甲状腺エコー検査で結節かのう胞が見つかりました。

第7回福島県「県民健康管理調査」検討委員会 次第
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240612shiryou.pdf

この記者会見内で、IPPNW次期共同代表であり、オーストラリアの感染症学および公共衛生学専門医のティルマン・ラフ医師と、同じくオーストラリアの核放射線医学専門医のピーター・カラモスコス医師により、福島県の子供たちの甲状腺検査結果についての意見が述べられましたので、その部分のみを英語で書き起こしたものを、ここに和訳致しました。

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質問:福島の子供達の35%に甲状腺異常が見つかったことについて、どう思われますか?

ラフ医師
「このデータは明らかに重要であり、こうした調査とデータを収集を、定期的に繰り返す必要がありますし、妥当なことです。こういった調査の結果と言うのは方法に依存します。また、福島で影響を受けた人達の追跡調査において重要なのは、時間の経過による変化と、汚染がひどくない地域との比較です。

この調査は、紛れもなくベースラインの調査です。生物学的に、そしてチェルノブイリや他の場所での経験から見て、事故後に甲状腺異常がそんなに早くに見つかるとは思えません。これらののう胞や結節のほとんどは、とても小さなものです。近い将来、日本の他の汚染が少ない場所で調査をすると言うのは、良い決断だと思います。」


カラモスコス医師
「この調査で結節が多く見つかった事は、私達が甲状腺について知っている事や過去の研究と釣り合っています。一般的に言われていることに反して、甲状腺結節は子供には良くあるのです。もちろん、ほとんどの子供には見られませんが、良くあります。検査に使用されるエコー機器の感度が良ければ良いほど、色々と見つかるのです。この程度の結節の比率は、間違いなく、子供たちに良く見られる範囲内です。

実際、福島県立医科大学の鈴木医師は、検査結果には直径1ミリの結節が含まれていると言われてました。今までの研究ではこんなに小さなサイズの結節は含まれていませんでした。なので、結節が35%の子供たちに見つかっても、驚くことではありません。

最後に、甲状腺の結節やのう胞と言うのは、必ずしも病気ではないと言うことを強調するのが大切です。実際の所、結節やのう胞と言うのは、甲状腺の普通の発達の一部なのです。なので、お子さんに結節やのう胞が見つかったご家族は、そんなに心配する事はありません。これはベースライン調査です。ベースラインを把握して、将来的に追跡調査をし、甲状腺がんになる人がいるのかを調査するのです。今、現在、病気であると言う事ではありません。」


質問:福島視察の際に、福島医大の医師達と核戦争防止会議の医師達との間で、セカンド・オピニオンが受けにくいと言うことに関しての論争はありましたか?


カラモスコス医師
「セカンド・オピニオンというのは、患者の基本的な権利です。その権利は否定できません。」

ラフ医師
「この件に関しての結論としてのコメントを述べさせて頂きたいのですが、甲状腺異常がかなり懸念されているのは明らかのようです。チェルノブイリ後に、予期なく早い時期に、子供の甲状腺がんが急増したと言う事から学ぶ事は重要です。そして先日発表されたWHOの推定被曝量の報告では、子供の甲状腺被曝量は、国際的ガイドラインにおいて安定ヨウ素剤を摂取するべきであった範囲内であると推定されていました。でも、日本では安定ヨウ素剤は使用されませんでした。なので、甲状腺の追跡調査はより重要になります。」


質問:昨日の福島県の視察の後、事故がまだ収束していないのに、大人も子供も福島県に居住し続けて低線量被曝をし続けている事についてどう思われますか?

ラフ医師
「子供において、長期間の被曝の悪影響に対しての感受性が増加するという事は広く認識され、記述もされています。それを考えると、子供たち、そして妊婦を優先的に(避難に対して)考慮するのは非常に適切です。

移住を選択する人達、特に子供と移住をしたい人達をサポートするにあたり、首尾一貫した客観的な基準をもうける事が大切だと思います。これは、被曝推定量に基づくべきです。これは、社会的公正という重要な問題です。多くの人は、もしも移住できるなら移住をする選択をするであろうからです。」
 
(書き起こし和訳ここまで)
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失礼かもしれませんが、ラフ医師もカラモスコス医師も、小児科医でも甲状腺専門医のどちらでもありません。そして、福島県のみならず、近隣する他県、そして実は日本全国にどれほどの放射能汚染が広がっているのかを十分に把握されていないようにも思えます。また、福島県と近隣の他県において、日本政府や福島県立医科大学の目論見の裏で、人々がどのような思いをしているのかも、理解されていないと思います。

福島県放射線健康リスクアドバイザーおよび福島県立医科大学副学長であり、日本甲状腺学会の会長でもある山下俊一氏の手紙により、全国の甲状腺専門医にどのようなプレッシャーがかかっているのかをご存知なのでしょうか? 福島県立医科大学が患者がセカンド・オピニオンを求めるのを止めていないと言い張ったとしても、現実として、セカンド・オピニオンを提供できる医師を探すのは大変困難な状況です。福島県外の医師に、「福島の人は診てはいけない事になっています。」と告げられると言う報告が複数あります。

山下俊一氏の手紙はこちらでご覧になれます。
http://sos311admin.blogspot.com/2012/05/blog-post_19.html

実は、これは福島県だけの問題ではありません。東京や関東地方の人達にも甲状腺異常は見つかっています。やっとの思いで西日本へ避難したのに、甲状腺エコー検査で子供に結節やのう胞が見つかって嘆いている家族がいくつもあるのです。そして、子供を「甲状腺専門医」に受診させると、「普通です。」「生まれつきでしょう。」などと言われ、患者のものであるはずのエコー画像のコピーをもらえない事も多くあると聞きます。放射能被ばくの影響が心配なために甲状腺検査を受けたいと思っても、それを堂々と断る病院もあります。先日の毎日新聞の記事で、このような事について書かれていました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120826-00000010-mai-soci

この記事では、ラフ医師が言及しているように、福島県外の子供との比較データを得るための検査を実施すると言う、内閣府方針について書かれています。実際、そのような比較調査は必要であり、福島県と同様の検査水準や判定基準を用いるのは大切な事ですが、福島県立医科大学のこれまでの不透明さを考慮すると、中立的な立場の機関による監査を行うのが賢明と言えるかもしれません。

カラモスコス医師は、福島県立医科大学の器官制御外科学講座の教授であり、甲状腺検査の責任者、そしてさらには、先述の日本甲状腺学会による手紙の共同署名者である鈴木眞一氏の言葉に言及しています。 

鈴木眞一 http://www.fmu.ac.jp/kenkyu/Profiles/6/0000584/profile.html

鈴木氏は、カラモスコス医師に、検査に使用されたエコー機器の精度が高いために、直径1ミリの結節まで見つかっており、それが結果の35%に含まれていると説明したようです。しかし、公表された検査結果内では、5ミリ以下のサイズによる分類はされていません。

甲状腺結節のサイズによる分類:201人に5.0ミリまたは5.0ミリ以下の結節が見つかったが、何人に1.0ミリの結節が見つかったかという細かい分類はされていない。


甲状腺のう胞のサイズによる分類: 12,414人に5.0ミリか5.0ミリ以下ののう胞が見つかったが、何人に1.0ミリののう胞が見つかったかという細かい分類はされていない。



また、福島県の甲状腺検査の判定基準のガイドラインがどのようにして設定されたかと言う事に、疑問があります。このガイドラインによると、5ミリか5ミリ以下の結節や、20.0ミリか20.0ミリ以下ののう胞がある子供達は、2年後に再検査を受ける事になっています。

福島県「県民健康管理調査」検討委員会は、福島県立医科大学、放射線医学総合研究所、放射線影響研究所、広島大学や長崎大学のメンバー等で構成されています。福島県「県民健康管理調査」検討委員会議事録によると、このガイドラインは、甲状腺検査専門委員会診断基準等検討部会(通称、学外甲状腺専門委員会)によって設定されたと言う事でした。この学外甲状腺専門委員会というのは、次の7学会により構成されました。

     日本甲状腺学会 http://www.japanthyroid.jp/
     日本内分泌外科学会 http://jaes.umin.ac.jp/
     日本甲状腺外科学会 http://square.umin.ac.jp/thyroids/
     日本超音波医学会 http://www.jsum.or.jp/
     日本超音波検査学会 http://www.jss.org/
     日本小児内分泌学会 http://jspe.umin.jp/
     日本乳腺甲状腺超音波会議 http://www.jabts.net/

しかし、この学外甲状腺専門委員会の議事録と言うのは、少なくともインターネット上では見つからず、一体どういった経緯でガイドラインが設定されたのか不明です。(ちなみに、8月31日付けで、日本乳腺甲状腺超音波会議がどうやら一般競争入札により、前述の福島県外の子供における比較調査を委託されたようです。公正な調査になるのでしょうか。)

従って、日本の一般市民が、福島県立医科大学が誠意と透明性を持って対処をしてくれるとは信じ難い部分があります。そして、子供にちゃんとした医療を受けさせるどころか、検査についての十分な情報を得ることさえままならない、色々な家族からの様々な個々のケースを聞くと、35%と言うのは、単なる数字にしか見えなくなります。

ラフ医師は、世界保健機構(WHO)の「2011年の東日本大震災、津波による原発事故の放射線についての予備的な評価」 (WHO報告書)による、子供における甲状腺推定被ばく量は、国際的なガイドラインによると安定ヨウ素剤を必要とするものであったにも関わらず投与されなかった、と指摘しています。そのために、甲状腺に関してはさらに注意深く追跡調査をする必要がある、と注意を喚起しています。しかし、WHOによる甲状腺の推定被ばく量は、いくつかの理由により過小評価されている可能性があるかもしれません。

科学において、客観性というのは確かに大切ですが、基づいている「客観的データ」が正確でない場合、どうなるのでしょうか。外国人が、WHO報告書のような「公式」情報において「客観的データ」を求めるのは、言葉の壁と「公式」情報であるという事実のために、避けられないかもしれません。インターネット上で、個人が行っている土壌や食品の検査等の多くの信頼できる汚染情報が入手できたとしても、日本語が分からないと、そういった情報にアクセスできないでしょう。

「公式」な放射能測定であるからと言っても、真実であるとは限らないかもしれません。例えばWHO報告書において、「日本政府が20キロ圏内の住民を直ちに速やかに避難させた」と出てきますが、実際にはそのようではなかったと聞きます。SPEEDIなどの放射能プルーム拡散情報が発信されなかったため、避難した住民の中には、実際には知らずにプルームの方向へ、子供を連れて逃げた人達もいました。地元民の体験談という貴重な情報は、客観的データにはできないため、報告書になると、数字や計算の中に埋もれて消えてしまいます。不正確な情報に基づいた推定被ばく量は、信頼できるものとは言えませんが、科学者や研究者は、それをベースとして使用しています。残念なことに、WHO報告書や政府の報告書のデータを基にした研究論文はどれも、データの不正確さのために、妥当性や信頼性に欠けるかもしれません。

また、今は日本の多くの自治体で定期的に空間放射線量が報告されていますが、これはモニタリング・ポスト付近の汚染状況を表しているに過ぎません。もちろん自分が呼吸を通して吸入している空気の汚染度を知る事は大切ですが、空間放射線量というのは、モニタリング・ポスト付近のガンマ線を測定しているだけで、その個人の実際の被ばく状況を反映しているわけではありません。土壌や水源において、放射性セシウムのみならず、汚染している可能性がある全ての放射性物質の検査を行う事が重要です。飲食や呼吸によって体内に取り込まれた放射線核種による内部被ばくは、体に多大な被害を与えるからです。

福島第一原発から多くの放射性物質が放出されたにも関わらず、日常的に測定されるのは放射性ヨウ素とセシウムばかりです。先日、ストロンチウムとプルトニウムの汚染データが公表され、核分裂生成物による汚染が当初よりも広範囲である事が証明されました。

WHO報告書における甲状腺の推定被ばく量に関しては、ヨウ素131のみが考慮され、半減期が1570万年である、長寿命核分裂生成物であるヨウ素129は考慮されていないようです。ヨウ素129というのは、テルル129(半減期69.9分)とテルル129m(半減期33.6日)が崩壊してできます。群馬県高崎の包括的核実験禁止条約(CTBT)放射性核種観測所の報告書の4-6ページの粒子状放射性核種の放射能濃度の表によると、テルル129もテルル129mもかなりの量が放出されています。

原子力資料情報室: ヨウ素129
http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/10.html

高崎の包括的核実験禁止条約(CTBT)放射性核種観測所の報告書
http://www.cpdnp.jp/pdf/110427Takasaki_hreport_Apr23.pdf
文部科学省は、2011年10月31日に、2011年6月から7月にかけて採取された土壌サンプルを基にした、テルル129mの土壌濃度マップを発表しました。

http://radioactivity.mext.go.jp/ja/contents/6000/5050/24/5600_103120.pdf



ヨウ素129というのは、下記でリンクされている研究論文(英語)においてのように、半減期が8日と短いヨウ素131の濃度をさかのぼって推定する際に使われる事があるようです。

“Isotopic ratio of radioactive iodine (129I/131I) released from Fukushima Daiichi NPP accident.”
http://www.terrapub.co.jp/journals/GJ/pdf/4604/46040327.pdf

放射能被ばく後の甲状腺への影響において、ヨウ素129はあまり考慮されていないようですが、だからと言って人体に無害であるとは言えないようです。(英語リンク)

“Radiological and Chemical Fact Sheets to Support Health Risk Analyses for Contaminated Areas: Iodine”
http://www.evs.anl.gov/pub/doc/iodine.pdf

“Iodine-129 Handling Precautions”
http://www.lbl.gov/ehs/html/pdf/iodine129.pdf


米国の環境保護局(Environmental Protection AgencyまたはEPA)は、全ての放射性核種はグループA(人間にとっての)発ガン物質であると分類しています。実際、ヨウ素129は、EPA報告書402-R- 99 -011 「放射性核種への環境的曝露におけるがんリスク係数:連邦報告13」の中で、致死・非致死リスク係数のリストに含まれています。

EPA Publication 402-R-99-011   Cancer Risk Coefficients for Environmental Exposure to Radionuclides: Federal Report No. 13.
http://nepis.epa.gov/Exe/ZyPDF.cgi?Dockey=00000C9E.PDF

放射性ヨウ素を吸入により取り込んだ場合の致死・非致死癌リスク係数



放射性ヨウ素を牛乳の摂取により取り込んだ場合の致死・非致死癌リスク係数


さらに、甲状腺には放射性ヨウ素以外にもセシウム137が蓄積すると言う事が、ベラルーシ共和国から国外追放の身である、解剖学病理学医のユーリー・バンダジェフスキーの研究論文「小児の臓器におけるCs-137の慢性的な取り込み」によって分かっています。

小児の各臓器におけるCs-137の慢性的な取り込み
https://docs.google.com/open?id=0B68f83tqq7QuY0N6MlJYQnpLRjQ


結論として、現在の日本における異常事態での既知と未知の全ての事実や要因を考慮すると、福島の子供達の甲状腺エコー検査で見つかっている異常が、カラモスコス医師が言うように「甲状腺の普通の発達」の一部であると言い切ってしまえるのでしょうか?ラフ医師とカラモスコス医師は、仮に自分の子供が福島の子供達の立場におかれたとして、汚染地域に住まされ、積算被ばく量測定のために首から「ガラスバッジ」を下げ(その間も常に放射能に体を蝕まれながら)、汚染された空気や埃を吸い込み、給食で汚染された食べ物や牛乳をあてがわれていても、現在の甲状腺異常は心配する事ないと言えるのでしょうか?

これほど大量の放射能汚染に対して人体がどのように反応するのかを人体を通じて検証すること自体、本来は人類のためにあるべき「科学」を大きく逸脱しているのではないでしょうか?現状は、実際のところ、多くの大人や子供達が、放射能汚染のある現場において放射能被ばくの影響の観察の対象になっていると言う、前代未聞の状態なのです。このような非人道的で許し難い行為を許すと言う事は、原子力から離れて本当に安全なエネルギーへ向かう動きと相容れるものではありません。





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